今の日本は実に豊かな食生活を享受しているように見えますが、この一方でさまざまな〝こしょく〟という問題点があることを前述しました。とりわけ「個食」や「弧食」という言葉が生まれるほど、家庭における食は揺らいでいます。
かつての日本の家庭は、通常二世帯・三世帯が同居しており、家族全員が一堂に会して食事をする慣わしでした。従って食事の場は家族が集う団欒の場であり、その日にあったことを話し合ったものです。このように、食事するだけでなく対話を通じて、親から子へ、また子から孫へと色々なことを教える教育の場でもあったのです。ところが、核家族化が進み、更に親と子どもの帰宅時間がバラバラになり、今ではこのような光景はほとんど見られなくなってしまいましたそういう私も会社勤め時代には休日を除いて子ども達と食事をすることはほとんどありませんでした。また、近年これに追い討ちをかけているのが、子ども達の放課後の学習やお稽古事です。塾に行くためにお弁当を持参する、コンビニを利用する、といったことも多くなっているようです。この結果、誰ともコミュニケーションすることなく一人で食事をする、いわゆる個食や弧食の子ども達が増えてきているのです。
最近の若者達の中には、社会に出ても人間関係がうまくいかず、家に引きこもってしまうといったケースや知識偏重型でものの考え方ができていないといったケースも散見されますが、この原因はほとんどがコミュニケーション能力の不足であると言われています。
コミュニケーションは、まず家庭においてしっかりと行なうことが基本です。食べることは栄養を摂ることだけではありません。家族がみんな揃って食べることは心の栄養も一緒にいただくことになります。また、テレビを見ながら食事をするということも多いようですが、できれば食事の間はテレビを消して、できる限り家族で食卓を囲みながらコミュニケーションをはかって欲しいものです。
(文責 中尾 直史)