ヴァーチャルウォーター

人間が生存していくためには水は不可欠ですが、日本においては水に関する危機感は薄いようです。この原因は、台風の影響で世界の年間平均降雨量の1.7倍にも当たる1700ミリメートルの降雨があり、水が有り余っているという印象が強いからだと思います。しかし、20世紀は石油の世紀と言われたのに対し、21世紀は水の世紀と言われ世界中で水不足が深刻化してきています。
水の用途は大きく分けると、食料生産、工業生産、生活用水になりますが、このうちの大半(約3分の2)が農作物と家畜を育てるための食料の確保のために使われているのです。
日本は牛肉や小麦、大豆、とうもろこし等をはじめ食料の約6割を海外から輸入していますが、これらをすべて国内で作ると膨大な量の水が必要になります。これはバーチャルウォーター(仮想水)と呼ばれており、食料を輸入した国が自分の国でその食料を生産した場合、どのくらいの水が必要になるかを推定した数字で、ロンドン大学のアンソニー・アラン名誉教授が1990年代に提唱しました。
これらの輸入食料を生産するために使用されている水の量は年間640億トンであり、これは日本全体の農産物の生産に使われる灌漑用水の量をはるかに上回っています。言い換えると国民一人あたりでは毎日約1500リットルの水を海外から輸入していることになるのです。
しかも日本は山が多く、大きな貯水湖も少ないため、河川の水は利用されないまま海へと流れ出てしまいます。そのため実際に利用できる水の量は少なく、1人あたりの水資源の量は世界平均の半分以下に過ぎません。それにもかかわらず、日本で「水不足」を感じないのは、大量のバーチャルウォーターを輸入しているからなのです。
このように日本は水の輸入大国であるという現実を知り、一人ひとりが食料を大切にするということを心がけていきたいものです。
(文責 中尾直史)

2023年04月05日