手作りの味を伝える

 

 かつて、わが国においてはどの家庭にも代々にわたって姑から嫁へ、親から子へと独自の味が伝承されてきました。これらがその土地の特有の〝郷土料理〟や〝おふくろの味〟と言われるものです。
人間の脳の中には、幼少の頃に食べた味覚がいつまでも刷り込まれているため大人になってからもこの味が忘れられないという人が多くいます。しかし、残念なことに、最近はおふくろの味がすっかり影を潜め死語になりつつあります。
この大きな理由としては「核家族化が進んだ」「食の西洋化に伴う日本食離れが起こった」「ファーストフードを中心とする外食産業が飛躍的に成長した結果、家庭内で食事をする機会が減った」「持ち帰り惣菜や冷凍食品等の食材が増えた」「料理の宅配が増えた」等があげられます。
そして、残念なことに便利さを追求するあまり手間暇をかけずに食事をするというパターンが定着しつつあります。また、最近は漬物、梅干し、味噌、干し柿、干し大根、フキや山椒の佃煮、ふりかけ、ジャム等を手づくりする家庭もほとんどなくなってしまいました。
以前、勤務していた学校の合宿研修において子ども達にカレーライスを作らせたことがありますが、包丁やピーラーをうまく使えない子どもがあまりにも多いのに驚きました。恐らく家庭で料理の手伝いをするという経験もほとんどないのではないかと思います。また、若い世代の中には魚を捌くことのできない人も数多くいるようで、スーパーに行くと骨を取り除いた魚が並んでいます。
このように最近は生きるために最も大切な食に対する関心が薄くなってきているようですが、今一度、手づくりの味のすばらしさを再認識していく必要があるように感じています。     (中尾直史)

2022年10月01日