この危機に際して政府が行ったのは国営農場の民営化とエネルギーを使わない都市型有機農業への転換です。具体的には、石油不足でトラクター等の農業機械が使用できなくなったため牛による耕作に切り替え、化学肥料の代わりに生ごみや牛糞やサトウキビの搾りかすを利用した堆肥の活用、農薬の使用をやめ植物由来の抽出液による害虫の防除、ミミズを活用した土づくり等です。ミミズが生み出した土は成分的にも安定していて5年間は効果が続き窒素も多いという優れものです。また、収穫せずに土に戻すことを目的とした作物(緑肥作物)を植えることにより混作・輪作を進めました。この結果、短期間で痩せていた土壌が栄養豊かな土壌に生まれ変わり、収穫量が飛躍的に増加しました。
更に食料だけでなく、作物を農場から都市への輸送燃料の不足を補うため食料消費の多い都市での野菜栽培の普及に注力しました。そして、首都ハバナを中心に中庭や屋上の活用、歩道と車道の間にプランターを設置、必要のない駐車場をつぶして都市農園へと転換させていきました。この結果、首都ハバナだけでも3万ヘクタールを超える農地が生まれ、ハバナで消費される野菜の約半分を自分たちで生産することができるようになったのです。
日本ではこれまで食料自給率を高めるという方針を何度も掲げていますが、掛け声倒れに終わっています。キューバは人口が1100万人、国土面積は日本の本州の半分くらいの大きさしかありませんが、国の総力を結集して食料自給率を極限の状態から回復させた取り組みについては見習うべき点が多いように感じています。
(文責 中尾直史)