前述したように、バレンタインデーには外国でも花やケーキやカードを恋人に贈る習慣はありますが、女性から男性へチョコレートを贈るのは日本だけのようです。それではどうして年間に消費されるチョコレートの4分の1がこの時期に集中するような状況になっているのでしょうか。今年も原材料費が高騰する中にもかかわらず、さまざまな特徴ある高級チョコレートが1カ月以上前からデパートや専門店、スーパー等多くの場所で販売されており、このイベントはすっかり定着しています。
しかし、ここにいたるまでには、菓子メーカーの涙ぐましい努力があるのです。バレンタインデーにチョコレートを贈るというイベントは、1958年(昭和33年)、メリーチョコレートの営業主任であった原邦生氏(後に社長に就任)がヨーロッパにいる知人から聖バレンタインの話を聞き、新宿の伊勢丹デパートでキャンペーンセールを行なったのが最初です。
ところが、3日間で売れたのは、わずか30円の板チョコ5枚と4円のカード5枚の計170円でした。それでも諦めずに、翌年からは〝女性から男性へ〟というメッセージを添えてハート型のチョコレートを売り出す新たな試みを行ないました。続いて、1960年(昭和35年)には森永製菓がバレンタイン企画を新聞広告に掲載しました。このような挑戦を続けた結果、1975年(昭和50年)代になって、やっとイベントとして注目されるようになったのです。実に20年近い歳月を要したことになります。
今年は最初のイベントから65年になりますが、現在のイベントの定着はお菓子メーカーの人達の血の滲むような努力の結晶と言えます。また、バレンタインデーの一月後の3月14日に、お返しとして男性から女性にチョコレートを贈るホワイトデーのイベントも定着しつつあります。
最近では色々な物の販売を伸ばすために、企業は何とか消費者の財布の紐を緩めようと懸命な取り組みを行なっており、記念日を設ける等の動きも出てきています。先日の節分の恵方巻きもこのような取り組みの一つです。今後、このような取り組みについても注目していきたいものです。
(文責 中尾直史)