中村天風に関する書物は数多くありますが、その中でも『成功の実現』は中村天風の講演したものをありのまま文章化したものなので、臨場感溢れる内容になっています。この中で彼はカリアッバ氏との出会いを次のように語っています。
『帰国の途中、イタリアの砲艦が座礁してスエズ運河が通れなくなり、アレキサンドリア港に碇を入れることになったが、これが私が救われる因縁そのものになった。
その朝、起きて顔を洗っていると突然に喀血して、苦しくてベッドに横たわっていたが、栄養をつけなくてはならないという忠告を受け、気が進まないまま食堂に行ってスープを飲んでいた。すると、薄紫のガウンを着た男が従者にクジャクの羽でハエを追い払わせて食事をしている光景が目に入った。
一見して身分の高い人という印象であったが、やがて「こちらへ来い」と呼ばれるままに行くと「お前はどこに行くのか?」と問いかけられた。「万策尽きたので、日本に帰る」と答えると「日本に墓場をこしらえに行くのか?お前は右の肺に大きな病を持っているな。お前のこれまでやってきたことが世の中のすべてではない。大事なことでやっていないことが一つある。理屈抜きでとにかく俺の行くところについてこい。」と言われた。
今から思うと不思議なことに「わかりました」と即答してしまい、半信半疑のまま彼に従って弟子入りすることになった。』≪続く≫
(文責 中尾直史)