各地から桜の開花が寄せられるようになってきました。厳しい冬を乗り越えて咲く桜の花を待ち焦がれていた人も多いのではないでしょうか。コロナ禍の間には自粛されていたお花見も今年は多くの地区で復活されるのではないかと思っています。
このお花見の風習は奈良時代に貴族の間で広まったと言われており、当初は梅の花が中心だったようですが、平安時代になると次第に桜が中心となってきました。
歴史上有名なのは豊臣秀吉が開いた奈良の吉野山や京都の醍醐寺で開かれた盛大な花見です。その後、江戸時代になって庶民の間にも広がってきたようです。
桜は昔から日本の象徴となる花として、人々から愛され慕われてきており、特別の思いを持って多くの歌にも詠まれてきました。その中でも私が心に残っているのは、〝散る桜 残る桜も 散る桜〟という良寛という僧侶の句です。
良寛は歌人としても有名で多くの歌を詠んでいますが、この意味は〝今散っていく桜も咲いている桜も、まだ残っている蕾の桜もいつかは同じように散っていくもので、すべて等しく美しい〟というものです。良寛は間もなく死を迎えることを悟ったうえで、今は咲いていてもやがて時が来ると散っていくという運命を受け入れたいという思いをこの句に込めており、桜の散り方は人と人との絆を大切にする日本人の死生観を見事に表しています。
また、桜は控えめであることが美しいとされる日本人の美意識とも重なります。
〝いにしえへの奈良の都の八重桜 ・・・・・・〟と謡われているように奈良公園には多くの桜が植えられていますので、今年は大いに桜花を楽しみたいと思っています。(文責 中尾直史)